私は三十代後半の営業職として、毎日都内を駆け回る忙しい日々を送っていました。そんな私の最大の悩みは、一日に十回以上も襲ってくる激しい尿意でした。朝の通勤電車の中で一度、オフィスに着いてすぐ一度、そして一時間おきにやってくるトイレへの衝動は、私の仕事のリズムを根底から破壊していました。特に対面での商談中や、長時間の会議がある日は地獄でした。一度尿意を意識し始めると、相手の話が全く頭に入らなくなり、冷や汗をかきながら時計を睨むことしかできませんでした。周囲からは「コーヒーの飲みすぎじゃないか」と笑われましたが、私にとっては深刻な死活問題でした。移動中も、常に「次の駅にトイレはあるか」「コンビニの場所はどこか」をスマートフォンの地図アプリで確認する癖がついてしまい、心から仕事に集中できる瞬間は一分もありませんでした。夜も夜中で、最低でも二回は尿意で目が覚めるため、慢性的な睡眠不足にも陥っていました。当初は「ただの神経質だろう」とか「加齢の始まりかな」と自分に言い聞かせ、市販のサプリメントを試したりしていましたが、症状は一向に改善しませんでした。ある日、重要な契約がかかったプレゼンの途中でどうしても我慢できなくなり、中座せざるを得なくなったとき、私は自分の限界を悟りました。翌日、勇気を出して泌尿器科を受診したところ、診断は「過活動膀胱」と「心因性頻尿」の合併でした。ストレスで自律神経が乱れ、膀胱が過敏になりすぎていたのです。医師から処方されたのは、膀胱の過剰な収縮を抑える薬と、少しずつ尿を溜める練習をする膀胱訓練の指導でした。最初は「尿意があるのに我慢する」ということが恐怖でしかありませんでしたが、五分、十分と少しずつ時間を延ばしていくうちに、私の膀胱は以前のような粘り強さを取り戻し始めました。また、営業車の中での缶コーヒーをノンカフェインのルイボスティーに変えたことも、大きな助けとなりました。治療を始めて三ヶ月、あんなに私を縛り付けていた一日十回のトイレ地獄は、今では一日六回程度の健康的な回数にまで落ち着きました。何よりも驚いたのは、トイレを気にしなくて良くなったことで、仕事のパフォーマンスが劇的に向上したことです。お客様との会話も心から楽しめるようになり、夜の眠りも深くなりました。もし、私と同じように「トイレが近くて仕事にならない」と一人で悩んでいる人がいるなら、どうか我慢を美徳としないでほしいと思います。病院へ行くことは恥ずかしいことではありません。それは、自分自身の人生の主導権をトイレから取り戻すための、最も前向きな一歩なのです。