まぶたが赤く腫れて、ズキズキと痛む。多くの人が「ものもらい」や「めばちこ」と呼ぶこの症状は、医学的には「麦粒腫(ばくりゅうしゅ)」と呼ばれる、まぶたの感染症です。身近な目のトラブルなだけに、多くの人が「この麦粒腫は、他の人にうつるのではないか?」という疑問や不安を抱きます。特に、小さなお子さんがいるご家庭や、人と接する機会の多い職業の方にとっては、気になる問題でしょう。結論から言うと、麦粒腫が、風邪やインフルエンザのように、空気感染や飛沫感染で次々と他の人にうつっていくことは、まずありません。麦粒腫は、主に「黄色ブドウ球菌」という、私たちの皮膚や鼻の中、喉などに普段から存在している「常在菌」が、まぶたにある汗や皮脂を分泌する腺に感染することで起こります。つまり、外部から特殊な病原菌が飛んできて感染するのではなく、自分自身の体に元々いる菌が、何らかのきっかけで悪さをしてしまう「自己感染」が原因なのです。したがって、麦粒腫の人と目を合わせたり、同じ空間にいたり、少し会話をしたりした程度で、感染を心配する必要は全くありません。ただし、可能性がゼロとまでは言い切れない、特殊なケースも存在します。それは、感染している人のまぶたを触った手で、そのまま自分の目をこすってしまう、といった「直接的な接触」があった場合です。膿の中には大量の細菌が含まれているため、汚染された手指を介して、菌が他人の目に運ばれてしまうリスクは理論上考えられます。しかし、これは極めて稀なケースであり、日常生活において過度に神経質になる必要はないでしょう。それよりもむしろ、麦粒腫になった本人が、患部を触った手で反対側の目をこすってしまい、自分のもう片方の目に感染を広げてしまうリスクの方が、はるかに現実的です。麦粒腫は「うつる」というよりは、「うつさない」ための配慮が大切な病気。正しい知識を持ち、過剰な不安を抱かずに、適切な治療に専念することが重要です。