3〜4日間続いた高熱が、まるで魔法のようにすっと下がった朝。保護者の方は、ようやく長いトンネルを抜けたと、心から安堵することでしょう。しかし、突発性発疹の物語には、まだクライマックスが残っています。それが、解熱とほぼ同時に、あるいは半日ほど遅れて現れる「発疹」です。熱が下がって安心したのも束の間、今度はお腹や背中を中心に、細かい赤いポツポツとした発疹が全身に広がり始めるため、保護者の方は「また別の病気?」「悪化したのでは?」と、再び不安に駆られてしまうかもしれません。しかし、この発疹こそが、一連の症状が「突発性発疹」であったことを確定させる、決定的な証拠であり、いわば病気の「卒業証書」のようなものなのです。この発疹は、ウイルスに対する体の免疫反応の結果として現れると考えられています。高熱が出ている間、体の中ではウイルスと免疫細胞が激しく戦っています。そして、ウイルスを無事にやっつけ、熱が下がった後に、その戦いの名残として、アレルギー反応に似た発疹が皮膚に現れるのです。そのため、この発疹は「解熱後発疹」とも呼ばれます。発疹の特徴は、数ミリ程度の、赤く少し盛り上がったような斑点状のもので、お腹や背中といった体幹部から出始め、次第に顔や手足にまで広がっていきます。麻疹(はしか)の発疹のように、発疹同士がくっついて大きな地図状になることはあまりありません。そして、最も重要な特徴は、この発疹には「かゆみがない」ことです。赤ちゃんが発疹を掻きむしるようなそぶりは見られません。また、この時期の赤ちゃんは、高熱から解放された安心感と、発疹の不快感がないため、比較的機嫌が良いことが多いです。しかし、中には、高熱の疲れが出たり、病気の後で甘えが強くなったりして、「不機嫌病」と呼ばれるほど、ぐずりがひどくなる子もいます。これも、病気の回復過程で見られる一つの姿です。この発疹は、特別な治療をしなくても、通常は2〜3日で、跡を残さずにきれいに消えていきます。発疹が出たら、もう病気の峠は越えたということ。あともう少し、頑張った赤ちゃんをたくさん褒めて、優しく見守ってあげましょう。
子供の「ものもらい」。幼稚園や学校は休むべき?
自分の子供のまぶたが赤く腫れ、「ものもらい(麦粒腫)」と診断された時、保護者の方が心配になることの一つが、「幼稚園や学校に行かせてもいいのだろうか?」「他の子にうつしてしまわないだろうか?」ということでしょう。結論から言うと、麦粒腫は、学校保健安全法で定められている「学校感染症」には該当しません。したがって、麦粒腫になったからといって、プールへの参加を除き、出席停止になる必要はなく、基本的には登園・登校させても問題ありません。これは、麦粒腫が、はやり目(流行性角結膜炎)やプール熱(咽頭結膜熱)といった、非常に感染力が強いウイルス性の目の病気とは異なり、周りの子供たちに次々と感染を広げるような病気ではない、という医学的な事実に基づいています。麦粒腫の原因は、あくまで本人のまぶたの常在菌によるものです。しかし、登園・登校をさせるにあたっては、いくつかの配慮と注意が必要です。まず、お子さん本人に、「目が痛くても、腫れていても、手でこすったり、触ったりしないように」と、よく言い聞かせることが大切です。子供は、無意識に患部を触ってしまいがちです。そして、その汚れた手で、おもちゃや他の子供に触れることで、ごく稀に、接触感染のリスクが全くゼロとは言い切れないからです。また、本人が反対側の目に菌を広げてしまう「自家感染」を防ぐ意味でも、この注意は非常に重要です。次に、幼稚園や学校の先生に、お子さんが麦粒腫であることをきちんと伝えておくことも大切です。事情を伝えておくことで、先生方もお子さんの様子に気を配ってくれますし、万が一、他の保護者の方から何か言われた際にも、先生から正しく説明してもらうことができます。ただし、症状がひどく、痛みが強くて目が開けにくい、腫れがひどくて視界が妨げられる、あるいは膿が出てきている、といった場合は、お子さん自身の負担を考え、症状が落ち着くまで、家庭でゆっくりと休ませてあげるのが賢明です。プールについては、感染を広げるリスクというよりは、プールの水に含まれる塩素などが刺激となり、症状を悪化させる可能性があるため、完全に治癒するまでは控えさせるべきです。医師の許可を得てから参加するようにしましょう。
麦粒腫の治療法。眼科ではどんなことをする?
まぶたの腫れや痛みで眼科を受診し、麦粒腫と診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか。治療の目的は、細菌の増殖を抑え、炎症を鎮め、症状を速やかに和らげることです。症状の程度に応じて、いくつかの治療法が組み合わせて行われます。まず、最も基本となる治療が「点眼薬(目薬)」です。原因となっている細菌(主に黄色ブドウ球菌)に有効な「抗菌点眼薬」が処方されます。これは、細菌の増殖を抑え、殺菌する効果があります。1日に数回、医師の指示通りに点眼することで、炎症の悪化を防ぎ、治癒を促します。点眼薬と合わせて、「抗菌眼軟膏」が処方されることもあります。軟膏は、目薬よりも患部に長くとどまるため、より持続的な効果が期待できます。夜寝る前などに、まぶたの縁や内側に塗布します。炎症が非常に強く、赤みや腫れ、痛みがひどい場合には、飲み薬の「抗生物質(内服薬)」が処方されることもあります。体の内側から、より強力に細菌を叩くことで、炎症を速やかに鎮めることを目的とします。特に、まぶた全体が腫れあがるような重症例や、糖尿病などの基礎疾患がある場合に用いられます。これらの薬物療法で、多くの場合、症状は数日から1週間程度で改善に向かいます。しかし、炎症が進み、膿が大量に溜まって、まぶたがパンパンに腫れあがり、痛みが非常に強い場合には、「切開排膿(せっかいはいのう)」という処置が必要になることがあります。これは、点眼麻酔をした上で、膿が溜まっている部分の皮膚を、注射針やメスの先で小さく切開し、中に溜まった膿を押し出して排出させる処置です。膿を出すことで、まぶたの圧力が下がり、痛みは劇的に楽になります。切開と聞くと怖く感じるかもしれませんが、処置自体は短時間で終わり、傷跡もほとんど残りません。麦粒腫は、早期に治療を開始すれば、比較的早く治る病気です。症状に気づいたら、自己判断で市販薬に頼ったり、放置したりせず、早めに眼科を受診し、専門医による適切な治療を受けることが、悪化させずにきれいに治すための鍵となります。
ヘルパンギーナで咳は出る?主な症状と見分け方
夏になると子供たちの間で流行する「ヘルパンギーナ」。突然の39度以上の高熱と、喉の奥にできる痛みを伴う水ぶくれが特徴的な、いわゆる「夏風邪」の代表格です。この病気は、主にコクサッキーウイルスA群などのエンテロウイルス属のウイルスによって引き起こされます。保護者の方がヘルパンギーナについて調べる時、多くの方が「咳」の症状について疑問を持つようです。「ヘルパンギーナでも咳は出るの?」「咳が出ているけど、これは本当にヘルパンギーナ?」といった声がよく聞かれます。結論から言うと、ヘルパンギーナの典型的な症状として、「咳」はあまり一般的ではありません。ヘルパンギーナの主な症状は、あくまで「突然の高熱」と「喉の奥の小水疱・口内炎」の二つです。喉の奥、特に口蓋垂(のどちんこ)の周りや上顎の粘膜に、赤く縁取られた1~2ミリ程度の小さな水ぶくれが数個から十数個でき、これが破れて潰瘍になると、強烈な喉の痛みを引き起こします。この喉の痛みから、食事や水分を摂るのを嫌がるのが大きな特徴です。では、なぜヘルパンギーナで咳の症状を訴える子がいるのでしょうか。これにはいくつかの理由が考えられます。一つは、喉の強い痛みや違和感、あるいは水ぶくれから流れ出る分泌物が刺激となり、それを排出しようとして「反射的に咳き込む」ケースです。これは、風邪の時のように、気管支の炎症が原因で出る咳とは少し性質が異なります。もう一つ考えられるのが、「他の風邪ウイルスとの混合感染」です。夏場には、ヘルパンギーナの原因ウイルスだけでなく、アデノウイルスやRSウイルスなど、咳を主症状とする様々なウイルスも活動しています。そのため、ヘルパンギーナと同時に、別の風邪ウイルスにも感染してしまい、結果として咳の症状が出ている可能性があります。したがって、「咳が出ているからヘルパンギーナではない」とも、「ヘルパンギーナだから咳は出ないはず」とも、一概には言えません。しかし、もし咳や鼻水が主症状で、喉の奥に特徴的な水ぶくれが見られない場合は、ヘルパンギーナ以外の夏風邪の可能性が高いと考えられます。いずれにせよ、自己判断はせず、高熱や喉の痛みが続く場合は、必ず小児科を受診し、正確な診断を受けることが大切です。