交通事故を専門的に扱う外来の診察室で、私たちは日々、事故の衝撃に打ちひしがれた患者様と対面します。そこで私が最も強く、そして繰り返しお伝えしているのは、「初動の三日間」がその後の回復の質を決定づけるということです。多くの患者様は、目に見える出血や骨折がなければ、「仕事があるから」「明日になれば良くなるから」と受診を先延ばしにしようとします。しかし、これは医師の目から見ると、非常に危うい行為です。交通事故の衝撃は、体内の筋肉や神経に対して、深部でじわじわと広がる炎症を引き起こします。特に頸部の「むちうち」は、受傷直後には交感神経が昂っているため本人が不調を自覚しにくいのですが、三日後、あるいは一週間後に、炎症物質が組織に充満した段階で、激しい頭痛、めまい、しびれとなって噴出します。何科を受診すべきか迷う時間は、炎症を抑えるための黄金時間を失っているのと同じです。診察室で私が行うのは、単にレントゲンを撮ることだけではありません。患者様の反射テストや筋力テストを行い、目に見えない神経の伝達にエラーが起きていないかをミリ単位でチェックします。このとき、受傷直後の「まっさらな状態の記録」があることは、医学的に極めて価値があります。後に症状が悪化した際、その変化を時系列で比較できるため、原因の特定が格段に早まるからです。また、私がよく受ける質問に「整骨院とどちらがいいですか」というものがありますが、私は必ず「まずは一度、こちらで画像診断をさせてください」とお答えします。例えば、一見すると単なる肩こりに見える症状の裏に、微細な椎体骨折や椎間板の突出が隠れていることがあります。それを知らずに強い手技を受けてしまい、症状を一生モノの神経障害に変えてしまった悲しい事例を、私は何度も見てきました。病院、特に整形外科での受診は、あなたの身体を守るための「安全装置の点検」です。適切な消炎薬を早期に服用し、正しい安静の取り方を学ぶことで、慢性的な後遺症になる確率を劇的に下げることができます。交通事故は、あなたの人生に突然割り込んできたノイズのようなものです。そのノイズを最小限に抑え、一刻も早く以前の穏やかな日常に戻すために、どうか勇気を持って、そして迅速に専門医のドアを叩いてください。私たちは、医学の英知を結集して、あなたの「元通り」への歩みを全力で支える準備ができています。
交通事故外来の現場で医師が伝える初動対応の重要性