「蟻は一匹見たら百匹いると思え」。これは、昔からよく言われる警告ですが、決して大げさな言葉ではありません。その背景には、蟻が持つ驚くべきコミュニケーション能力、すなわち「道しるべフェロモン」の存在があります。この目に見えない化学物質こそが、短時間で蟻の大量発生と大行列を引き起こす直接的な原因なのです。蟻の社会では、餌探しは非常に効率的なシステムで行われています。まず、巣から少数の「偵察蟻」が出発し、広範囲に散らばって餌を探し回ります。この時点では、まだ行列はできていません。そして、一匹の偵察蟻が、幸運にもあなたのキッチンに落ちていたお菓子のクズを発見したとします。その偵察蟻は、餌を巣に持ち帰る際、腹部の先端から道しるべフェロモンを地面に付けながら帰っていきます。これが、すべての始まりです。巣に戻った偵察蟻は、仲間に餌のありかを知らせます。すると、巣にいた働き蟻たちが、偵察蟻が残したフェロモンの匂いを頼りに、一斉に餌場へと向かい始めます。そして重要なのは、餌を見つけた働き蟻たちもまた、巣に帰る際にフェロモンを上塗りしていくということです。一匹が付けた道は、二匹、三匹と仲間が通るたびに、より濃く、より強固な「匂いの道」へと強化されていきます。このフィードバックシステムにより、情報は瞬く間に巣全体に伝達され、あっという間に何十、何百という蟻からなる大行列が完成するのです。このメカニズムを理解すれば、大量発生への対策の鍵も見えてきます。最も重要なのは、最初の「偵察蟻」を見逃さないことです。もし一匹でも家の中で見かけたら、それは偵察部隊である可能性が高いと認識し、すぐに駆除することが被害の拡大を防ぎます。そして、もし既に行列ができてしまっていたら、単に蟻を駆除するだけでなく、濡れた雑巾やアルコールスプレーなどで、フェロモンの道を完全に拭き取ることが不可欠です。この「匂いの道」を断ち切らない限り、蟻は何度でも同じルートをたどって侵入してきてしまうのです。
一匹見たら百匹いる?蟻の行列を作る「道しるべフェロモン」の恐怖