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恥ずかしさを乗り越えて婦人科で相談するのはありか
血便というデリケートな問題に直面した女性が、専門である消化器内科や肛門科の受診をためらってしまう一番の理由は、やはり「羞恥心」でしょう。特にお尻の診察には強い抵抗を感じる方が多く、それが受診を遅らせる大きな障壁となっています。そんな時、「婦人科なら、女性特有の悩みに慣れているし、医師も女性が多いから相談しやすいかもしれない」と考える方もいるかもしれません。では、血便の相談を、まず婦人科にするのは果たして「あり」なのでしょうか。結論から言うと、限定的な状況を除いては、最適な選択とは言えません。婦人科は、子宮、卵巣、膣といった女性生殖器の専門家であり、消化管や肛門の病気を診断・治療するための専門的な知識や設備(内視鏡など)は備えていません。血便の原因が痔や大腸の病気である場合、婦人科では正確な診断を下すことはできず、結局は消化器内科や肛門科を紹介されることになります。つまり、遠回りになってしまう可能性が高いのです。ただし、いくつかの例外的なケースでは、婦人科への相談が有効な場合があります。例えば、血便だと思っていた出血が、実は生理の経血や、子宮頸がん・子宮体がんなどによる「不正性器出血」であった、という可能性です。特に、排便のタイミングと関係なく下着に出血が付着する場合や、性交後に出血がある場合などは、婦人科系の病気が疑われます。また、重い「子宮内膜症」が、腸の壁にまで及んでいる場合(腸管子宮内膜症)、月経周期と連動して腹痛や血便が現れることがあります。このような、月経との関連性が強く疑われる症状の場合は、婦人科への相談が的確です。しかし、これらのケースは比較的稀であり、ほとんどの血便は消化管由来です。羞恥心を乗り越えるための工夫として、最初から「女性医師が在籍する消化器内科・肛門科」を探して受診するという方法があります。最近では、ウェブサイトで担当医の性別を公開しているクリニックも増えています。また、診察時にはタオルで体を覆ってくれるなど、プライバシーへの配慮を徹底している医療機関も多くあります。遠回りをして診断を遅らせるよりも、少しの勇気を出して、最初から適切な専門科の扉を叩くことが、心と体の健康を守るための最も賢明な選択と言えるでしょう。
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大人のRSウイルス、喉の激痛はそのサインかも
RSウイルス感染症と聞くと、多くの人が「乳幼児がかかる、重い呼吸器の病気」というイメージを持つかもしれません。確かに、RSウイルスは、特に生後数ヶ月の赤ちゃんが感染すると、細気管支炎や肺炎を引き起こし、重症化しやすいことで知られています。しかし、このウイルスは、決して子供だけの病気ではありません。大人も感染し、時にはつらい症状に悩まされることがあるのです。大人がRSウイルスに感染した場合、その症状は一般的な風邪と非常によく似ています。鼻水、鼻づまり、咳、発熱といった、いわゆる「かぜ症候群」の症状が現れるのが一般的です。しかし、その中でも、多くの大人が「特に辛かった」と訴える症状の一つが、「喉の強い痛み」です。風邪の時にも喉の痛みはよく経験しますが、大人のRSウイルス感染症では、その痛みが尋常ではないレベルに達することがあります。「唾を飲み込むのも激痛」「カッターナイフで喉を切り裂かれるような痛み」「喉が焼けるように痛い」などと表現されるほどの、激しい咽頭痛に見舞われることがあるのです。この強い痛みのため、食事や水分を摂ることさえ困難になり、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。なぜ、大人が感染すると、これほどまでに喉の痛みが強くなるのでしょうか。その一因として、大人の成熟した免疫システムが、ウイルスに対して過剰に反応し、喉の粘膜で強い炎症を引き起こしてしまうためではないかと考えられています。子供の頃にRSウイルスに何度も感染している大人は、ウイルスに対する免疫をある程度持っています。そのため、ウイルスが肺の奥深くまで侵入して重い肺炎になることは稀ですが、その代わりに、ウイルスの侵入口である上気道、特に喉(咽頭)で激しい局所的な炎症が起こりやすいのです。もし、普通の風邪だと思っていたのに、喉に経験したことのないような激しい痛みが現れた場合、それはRSウイルス感染症のサインかもしれません。
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これは危険!頭をぶつけた後の警告サイン
頭をぶつけた直後は、特に変わった様子がなくても、数時間後、あるいは数日後に、頭蓋骨の内部でじわじわと出血が広がり、深刻な状態に陥ることがあります。これを「遅発性頭蓋内血腫」と呼び、特に高齢者や、血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は注意が必要です。頭をぶつけた後、最低でも24〜48時間は、本人の様子を注意深く観察し、以下に挙げるような「危険な警告サイン」が現れた場合は、たとえ夜間や休日であっても、直ちに救急外来を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。まず、最も重要な観察ポイントは「意識の状態」です。頭をぶつけた後に、意識が朦朧としてきた、呼びかけへの反応が鈍い、あるいは眠ってしまって、つねってもなかなか起きないといった「意識レベルの低下」は、脳が圧迫されていることを示す、非常に危険なサインです。また、話している内容が支離滅裂になったり、場所や時間が分からなくなったりする「見当識障害」も、同様に危険な兆候です。次に注意すべきなのが、「嘔吐」です。頭をぶつけた直後に1〜2回吐くことは、子供などではよく見られますが、時間を置いてから、あるいは何度も繰り返し吐く場合は、頭蓋内の圧力が上昇している可能性があります。特に、噴水のように勢いよく吐く場合は、緊急性が高いと考えられます。また、「けいれん発作」が起きた場合も、脳に何らかの異常が起きているサインであり、即座の対応が必要です。「手足の動き」にも注意を払いましょう。片側の手足が動かしにくい、力が入らないといった麻痺の症状や、まっすぐに歩けない、ふらついてしまうといった運動失調が現れた場合も、脳の特定の部分が損傷・圧迫されていることを示唆します。その他にも、「激しい頭痛」がだんだん強くなってくる、「瞳の大きさが左右で違う」「物が二重に見える」といった症状も、重要な警告サインです。これらの症状は、脳からのSOSです。たとえ打撲が軽いものに見えても、これらのサインを見逃さず、迅速に行動することが、後遺症を防ぎ、命を救うことに繋がるのです。
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胃痛で病院へ、どんな薬が処方される?
胃痛で消化器内科などを受診すると、医師は問診や検査の結果に基づいて、症状の原因や状態に合わせた薬を処方します。市販の胃薬にも様々な種類がありますが、医療機関で処方される薬は、より作用が強力であったり、専門的なメカニズムで効果を発揮したりするものが中心となります。胃痛の治療で最もよく使われるのが、「胃酸分泌抑制薬」です。胃痛の多くは、攻撃因子である胃酸が、防御因子である胃粘膜の抵抗力よりも強くなることで起こります。そのため、胃酸の分泌を強力に抑えることは、治療の基本となります。この代表格が、「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」や「カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)」です。これらは、胃酸を作り出す最終段階の仕組みをブロックすることで、非常に強力に胃酸の分泌を抑制し、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などの治療に絶大な効果を発揮します。PPIよりも歴史が古い「H2ブロッカー」も、胃酸の分泌を抑える薬として用いられます。次に、胃の粘膜を直接保護し、修復を助ける「胃粘膜保護薬」もよく使われます。胃の粘膜表面にバリアを張って胃酸から守る薬や、胃粘膜の血流を増やして、粘膜の防御機能を高める薬などがあります。胃酸分泌抑制薬と併用されることで、より効果的に潰瘍の治癒を促進します。また、胃の運動機能が低下して、胃もたれや食後の膨満感、胃痛が起きている場合には、「消化管運動機能改善薬」が処方されます。これは、胃のぜん動運動を活発にし、食べ物が胃から腸へとスムーズに送り出されるのを助ける薬です。機能性ディスペプシアの治療などで中心的な役割を果たします。さらに、痛みが強い場合には、一時的に「鎮痙薬(ちんけいやく)」が用いられることもあります。これは、胃の筋肉の異常なけいれん(痙攣)を抑えることで、キリキリとした差し込むような痛みを和らげる薬です。これらの薬に加え、ピロリ菌の感染が確認されれば、除菌のための抗菌薬が処方されます。医師は、あなたの症状や胃の状態を総合的に判断し、これらの薬を単独で、あるいは組み合わせて処方します。自己判断で市販薬を飲み続けるのではなく、専門医の診断のもとで、自分に最も合った薬による治療を受けることが、早期回復への一番の近道です。
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ヘルパンギーナの舌の口内炎、市販薬は使える?
子供の舌にヘルパンギーナによる痛々しい口内炎ができて、食事も摂れずに泣いている姿を見ると、少しでも痛みを和らげてあげたいと、薬局で口内炎の薬を買ってこようかと考える保護者の方もいるかもしれません。しかし、ヘルパンギーナが原因の口内炎に対して、市販の口内炎治療薬を使用することには、注意が必要です。結論から言うと、自己判断で市販薬を使用することは、基本的にはお勧めできません。その理由はいくつかあります。まず、市販されている口内炎治療薬の多くは、一般的なアフタ性口内炎(原因がはっきりしない、ストレスや疲れなどでできる口内炎)を対象としています。これらの薬の中には、炎症を抑えるためにステロイド成分が含まれている貼り薬や塗り薬があります。しかし、ヘルパンギーナのようなウイルス感染症が原因の口内炎に、ステロイド薬を使用すると、免疫を抑える作用によって、かえってウイルスの増殖を助長し、症状を悪化させてしまう危険性があるのです。どの薬が使えて、どの薬が使えないのかを、保護者の方が正確に判断するのは非常に困難です。また、市販薬には、子供への使用が推奨されていない成分が含まれていたり、年齢制限が設けられていたりするものも多くあります。特に、乳幼児に安全に使用できる市販薬は限られています。さらに、薬を塗ったり貼ったりする行為自体が、子供にとっては大きな苦痛となり、嫌がって暴れることで、かえって口の中を傷つけてしまう可能性もあります。では、どうすれば良いのでしょうか。ヘルパンギーナには、ウイルスそのものを退治する特効薬はありません。治療の基本は、あくまで子供自身の免疫力でウイルスを克服するのを待つことであり、医療機関で処方されるのも、基本的には解熱剤や、脱水を防ぐための指導といった、症状を和らげるための対症療法です。家庭でできる最も重要なケアは、薬に頼ることではなく、前述したような「食事の工夫」と「こまめな水分補給」です。痛みを和らげるために薬を使いたいという場合は、必ず小児科を受診し、医師の診断のもとで、子供に安全に使用できる薬(例えば、粘膜保護剤や、非ステロイド系の消炎鎮痛薬など)を処方してもらうようにしてください。自己判断は避け、専門家のアドバイスに従うことが、最も安全で確実な道筋です。
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霰粒腫の治療法、ステロイド注射とは
まぶたのしこりには、細菌感染による「麦粒腫(ものもらい)」の他に、もう一つ、「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」という病気があります。これは、まつ毛の生え際の内側にあるマイボーム腺という脂を出す腺が詰まり、中に脂が溜まって肉芽腫という塊を形成したものです。麦粒腫のような急な痛みや赤みを伴うことは少なく、主な症状は「まぶたのしこり」や「異物感」です。この霰粒腫の治療法は、麦粒腫とは少し異なります。小さな霰粒腫であれば、自然に吸収されて治ることもありますが、しこりが大きくなってきたり、炎症を伴ったりした場合には、積極的な治療が必要となります。その治療の選択肢の一つが、「ステロイド注射(ケナコルト注射)」です。ステロイドには、非常に強力な抗炎症作用があります。霰粒腫は、細菌感染ではなく、溜まった脂に対する体の異物反応(非感染性の炎症)によって引き起こされるため、このステロイドの抗炎症作用が効果を発揮するのです。治療は、眼科の診察室で行われます。医師は、しこりのあるまぶたに、直接、ごく少量のステロイド薬を細い針で注射します。注射の際にはチクッとした痛みがありますが、通常は麻酔なしで行える程度のものです。注射されたステロイドは、しこりの内部でゆっくりと作用し、肉芽腫の炎症を鎮め、塊を萎縮させていきます。注射後、すぐにしこりが消えるわけではなく、効果が現れるまでには数週間かかることが一般的です。ステロイド注射のメリットは、メスを使わずに、比較的簡単な処置でしこりを小さくできる可能性がある点です。切開手術に抵抗がある方や、まずは保存的な治療を試したいという場合に、良い選択肢となります。ただし、全ての人に効果があるわけではなく、効果には個人差があります。また、注射によって皮膚の色が白っぽく抜けたり、皮膚が少しへこんだりする、あるいは眼圧が一時的に上昇するといった副作用のリスクもゼロではありません。しこりが非常に硬い場合や、何度も再発を繰り返す場合には、効果が出にくいこともあります。医師は、霰粒腫の大きさや硬さ、患者さんの希望などを総合的に考慮し、手術などの他の治療法も含めて、最適な方法を提案してくれます。
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ヘルパンギーナの舌のブツブツ、いつ治る?
ヘルパンギーナにかかり、子供の舌に痛々しい水ぶくれや口内炎ができてしまうと、親としては「このつらい症状は、一体いつまで続くのだろう」と、心配でたまらない気持ちになるでしょう。ヘルパンギーナの症状の経過を知っておくことは、先の見通しを立て、落ち着いて子供のケアにあたるために役立ちます。ヘルパンギーナは、原因となるウイルスに感染してから、おおよそ2〜4日の潜伏期間を経て、突然の発熱で発症します。そして、発熱とほぼ同時に、喉の奥や舌に赤い発疹が現れ、それがすぐに小さな水ぶくれ(水疱)へと変化していきます。この、発症から2〜3日目が、発熱と口の中の痛みのピークとなることが一般的です。舌にできた水ぶくれも、この時期に最も痛みが強くなります。この痛みのピークを過ぎると、水ぶくれは自然に破れて、浅い潰瘍、つまり白い口内炎(アフタ)になります。水ぶくれが破れると、中のウイルスが排出されるため、痛みは少しずつ和らいでいく傾向にあります。そして、この口内炎も、発症から大体1週間程度で、痕を残すことなく自然に治癒していきます。熱も、通常は2〜3日で解熱することがほとんどです。つまり、舌のブツブツや痛みが完全に治まるまでの期間は、個人差はありますが、おおよそ1週間が目安となります。ただし、注意が必要なのは、症状が治まった後も、ウイルスはしばらくの間、体外に排出され続けるという点です。特に、便の中には、数週間にわたってウイルスが排出されることが知られています。そのため、回復後も、おむつ交換の際の手洗いや、トイレの後の手洗いを徹底することが、家族内での感染を防ぐために非常に重要です。ヘルパンギーナには特効薬はなく、治療はあくまで症状を和らげる対症療法が中心となります。つらい症状のピークは2〜3日であり、1週間ほどで必ず良くなっていく、という経過を知っておくことで、保護者の方も少しだけ落ち着いた気持ちで、お子様の看病に臨めるのではないでしょうか。
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たんこぶは大丈夫?頭をぶつけた後の応急処置
頭を強くぶつけると、打撲した部分の皮下で内出血が起こり、その血液やリンパ液が溜まって、ぷっくりとした「たんこぶ」ができます。見た目は痛々しいですが、たんこぶができること自体は、出血が頭蓋骨の外側にとどまっている証拠であり、多くの場合は大きな心配はいりません。しかし、適切な応急処置を行うことで、腫れや痛みを最小限に抑え、回復を早めることができます。頭をぶつけて、たんこぶができてしまった時の応急処置の基本は、「安静」と「冷却」です。まず、本人を落ち着かせ、椅子に座らせるか、頭を少し高くして横にさせるなど、楽な姿勢で安静にさせます。興奮して動き回ると、血行が良くなり、腫れがひどくなる可能性があります。次に、打撲した部分を冷やします。冷やすことで、血管が収縮し、内出血や炎症の広がりを抑える効果があります。清潔なタオルやガーゼで包んだ保冷剤や、ビニール袋に入れた氷水などを、たんこぶの部分に優しく当ててください。冷やしすぎると凍傷の危険があるため、1回あたり15〜20分程度を目安にし、少し時間を置いてから、また冷やすというのを繰り返すと良いでしょう。この冷却は、受傷後24〜48時間程度続けるのが効果的です。一方で、やってはいけないこともあります。それは、たんこぶを強く押したり、もんだりすることです。早く腫れを引かせようとしてマッサージをすると、かえって内出血を助長し、腫れを悪化させてしまいます。また、入浴についても、血行を促進させてしまうため、当日はシャワー程度で軽く済ませるのが無難です。たんこぶができている場合でも、前述したような危険な警告サイン(意識障害、繰り返す嘔吐、けいれんなど)がないかを、注意深く観察することが何よりも重要です。もし、これらの症状が見られた場合は、応急処置を中断し、直ちに医療機関を受診してください。また、たんこぶが非常に大きい、ブヨブヨしていて波動を感じる、あるいは時間が経っても全く小さくならない、といった場合も、一度、医師の診察を受けることをお勧めします。まれに、血腫が固まらずに残ってしまうこともあるためです。
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霰粒腫の手術、摘出術はどんな治療?
まぶたにできたしこり「霰粒腫」。点眼薬やステロイド注射といった保存的な治療を行っても、しこりが改善しない場合や、しこりが非常に大きくて見た目が気になる、あるいは角膜を圧迫して乱視の原因となっているような場合には、「霰粒腫摘出術」という手術が検討されます。これは、まぶたを切開して、原因となっているしこりの内容物と、それを包んでいる袋(嚢胞)ごと、きれいに取り除くという、最も確実な治療法です。手術と聞くと大げさに感じるかもしれませんが、通常は外来で、局所麻酔下で行うことができる、比較的短時間で済む処置です。手術は、眼科の処置室や手術室で行われます。まず、点眼麻酔をした後、まぶたの皮膚側と結膜側の両方に、注射による局所麻酔を行います。麻酔がしっかりと効けば、手術中に痛みを感じることはありません。医師は、しこりの位置や大きさに応じて、切開する場所を決定します。しこりが皮膚に近い場合はまぶたの皮膚側から、結膜に近い場合はまぶたを裏返して結膜側から切開します。皮膚側を切開した場合は、術後に縫合が必要となりますが、まぶたのシワに沿って切るため、傷跡はほとんど目立たなくなります。結膜側からの切開の場合は、縫合の必要はありません。切開を加えた後、医師は専用の器具を使って、しこりの内容物である粥状の脂と、再発の原因となる袋(嚢胞壁)を、丁寧にかき出します。この袋をきちんと取り除くことが、再発を防ぐ上で非常に重要です。手術にかかる時間は、しこりの大きさなどにもよりますが、おおよそ15〜30分程度です。術後は、感染予防のために抗菌薬の点眼や軟膏を使用し、数日間は眼帯を装着して過ごします。抜糸が必要な場合は、約1週間後に行います。霰粒腫摘出術は、しこりを根本的に取り除くことができるため、最も根治性の高い治療法と言えます。見た目の問題や、繰り返す炎症に悩まされている方にとっては、生活の質を大きく改善する有効な選択肢となります。不安な点があれば、事前に医師とよく相談し、納得した上で治療に臨むことが大切です。
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胸焼けと咳、逆流性食道炎の可能性
一か月以上も続く、頑固な咳。特に、食後や横になった時に咳き込んだり、胸焼けや、酸っぱいものが上がってくるような感覚(呑酸)を伴ったりする場合、その原因は呼吸器ではなく、「消化器」、具体的には「胃食道逆流症(GERD)」にある可能性を考える必要があります。胃食道逆流症とは、胃の中で食物を消化するために分泌される強力な酸である胃酸が、食道へと逆流してしまう病気です。通常、胃と食道の間は、筋肉(下部食道括約筋)によって固く閉じられていますが、加齢や食生活の乱れ、肥満などによってこの機能が弱まると、胃酸の逆流が起こりやすくなります。逆流した胃酸は、食道の粘膜を傷つけて炎症を起こし(逆流性食道炎)、胸焼けや胸の痛みを引き起こします。そして、この胃酸が、喉や気管の近くまで上がってくることで、咳のセンサーを直接刺激したり、あるいは、食道の神経を介して、反射的に咳を引き起こしたりするのです。これが、胃食道逆流症による慢性的な咳のメカニズムです。このタイプの咳には、いくつかの特徴があります。まず、食事の後、特に満腹になった時や、脂っこいものを食べた後に症状が悪化しやすいことです。また、体を前にかがめたり、横になったりすると、胃酸が逆流しやすくなるため、就寝中や夜間に咳き込んで目が覚めることもあります。声がかすれたり、喉に常に違和感があったりといった症状を伴うことも珍しくありません。呼吸器内科などで咳の治療をしても一向に改善しない場合、この胃食道逆流症が見逃されているケースは少なくありません。もし、あなたが長引く咳と共に、胸焼けや呑酸といった消化器症状を自覚しているのであれば、一度「消化器内科」や「胃腸科」を受診してみることを強くお勧めします。消化器内科では、問診や、場合によっては胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)によって診断を下します。そして、治療の基本となる、胃酸の分泌を強力に抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)を処方してくれます。この薬の服用によって、胃酸の逆流がコントロールされれば、あれほどしつこかった咳が、嘘のように改善することが期待できるのです。