病院の待合室で自分の番を待っている際、後から来た人が先に呼ばれる光景を目にすることがあります。不公平に感じるかもしれませんが、そこには医療現場の鉄則である「トリアージ」という概念と、厳格な優先順位の仕組みが働いています。待ち時間が長くなる理由の一つは、まさにこの「安全のための順序入れ替え」にあります。病院はレストランや銀行とは異なり、到着順が必ずしも診察順を決定するわけではありません。トリアージとは、限られた医療リソースを最も有効に活用し、救える命を確実に救うために、患者の緊急度や重症度を瞬時に判断して選別するプロセスです。例えば、外傷がないように見えても、胸の痛みを訴える人や、顔色が土気色で意識が朦朧としている人は、命に関わる疾患、すなわち心筋梗塞や脳卒中の疑いがあるため、数時間の待ち時間を飛ばして最優先で診察室へ運ばれます。また、小児科においては、ぐったりしている乳幼児や高熱で水分が摂れない子供が優先されるのは、医学的な安全管理上の義務です。私たちが待合室で過ごす時間は、いわば「今すぐ処置をしなくても命に別状がない」という、ある意味での健康の証明でもあるのです。優先順位は、看護師による事前の問診やバイタルチェック(血圧、体温、脈拍、酸素飽和度の測定)の結果に基づいて客観的に決定されます。このトリアージの仕組みが正しく機能しているからこそ、日本の医療は世界屈指の救命率を維持できていると言えます。また、予約制を導入している病院であっても、前の患者の容態が急変して緊急の処置が必要になった場合や、手術が予定より長引いた場合などは、医師の判断でスケジュールが調整されます。これらの事情を理解しておくことは、待ち時間に対するストレスを「安心」へと変換する助けになります。「私は待たされている」と被害的に捉えるのではなく、「この病院は緊急性の高い人を確実に見極め、命を大切にしているのだ」と信頼を寄せることで、待つことの意味が変わってきます。もちろん、病院側も待たせていることに対して申し訳なさを感じており、情報の透明性を高める努力を続けています。診察の遅延状況をパネルで表示したり、待ち時間を予測するシステムを導入したりするのは、患者の不安を少しでも和らげるためです。医療とは、社会全体で支え合う相互扶助のシステムです。自分の待ち時間が、誰かの一命を取り留めるための時間の一部になっているかもしれない。その想像力を持つことが、混雑する医療現場において、互いに敬意を持って接するための真の「患者力」となるのです。