10ヶ月になる娘が、初めて高熱を出した。それは、母親である私にとっても、初めての試練の始まりだった。39度を超える熱が3日間続き、私は生きた心地がしなかった。幸い、小児科で「突発性発疹の可能性が高い」と言われ、少しだけ気持ちは落ち着いたが、熱に浮かされてぐったりする娘を見るのは、胸が張り裂けるほどつらかった。そして、4日目の朝、熱がすっと下がった。心から安堵したのも束の間、今度は全身に赤い発疹が現れた。医師の言った通りだ、と分かってはいても、その痛々しい見た目に、また胸がざわついた。しかし、本当の戦いは、ここからだった。熱が下がって元気を取り戻すかと思いきや、娘はこれまで見たこともないほど、一日中ぐずり続けたのだ。抱っこをせがんでは泣き、降ろそうとすると火がついたように泣き叫ぶ。食事も受け付けず、好きだったおもちゃにも見向きもしない。夜も何度も目を覚ましては泣き、私は心身ともに疲弊しきっていた。「熱は下がったのに、どうしてこんなに機嫌が悪いの?」。インターネットで検索すると、「不機嫌病」という言葉が目に入った。突発性発疹の解熱後に、理由もなく激しくぐずる赤ちゃんが多いという。高熱で体力を消耗した後のだるさや、本人もよくわからない不快感が原因だと言われているが、そのあまりの豹変ぶりに、私は途方に暮れた。夫は仕事で帰りも遅く、日中は赤ちゃんと二人きり。泣き止まない娘を抱きしめながら、「私の何がいけないんだろう」と、自分を責めてしまったことも一度や二度ではなかった。そんな時、実家の母に電話で泣きつくと、母は笑って言った。「あらあら、あんたもそうだったよ。突発の後、一週間くらいは怪獣みたいだったわ。でもね、それは、お母さんに『ボク、ワタシ、頑張ったんだよ!』って、一生懸命伝えてる証拠なのよ。一番甘えられるお母さんに、全部ぶつけてるの。だから、つらいだろうけど、今はとことん付き合ってあげなさい」。母のその言葉に、私はハッとさせられた。そうだ、この子は3日間も、高熱という見えない敵と、たった一人で戦い抜いたのだ。不機便は、その勲章であり、私への信頼の証なのかもしれない。そう思えた瞬間、不思議と心が軽くなった。私は、泣き続ける娘を、前よりもっと強く、優しく抱きしめた。突発性発疹は、娘の成長の一里塚であると同時に、母親としての私の覚悟を試す、大切な試練だったのだと、今ならわかる。
娘の高熱と不機嫌。突発性発疹が教えてくれたこと