「ストレスで胃が痛い」。これは、多くの人が日常的に口にする言葉であり、実際に、精神的なストレスが胃の不調に大きな影響を与えることは、医学的にもよく知られています。仕事のプレッシャーや人間関係の悩み、環境の変化といったストレスがかかると、私たちの体は自律神経のバランスを崩してしまいます。自律神経は、胃酸の分泌や胃のぜん動運動をコントロールしているため、そのバランスが乱れると、胃酸が過剰に分泌されたり、胃の動きが悪くなったりして、キリキリとした痛みや、胃もたれ、胸焼けといった症状を引き起こすのです。このような、ストレスが主な原因と考えられる胃痛で、消化器内科を受診し、胃カメラなどの検査を受けても、「特に異常はありません」と言われるケースは少なくありません。胃の粘膜に潰瘍や炎症といった器質的な異常がないにもかかわらず、胃痛などの症状が慢性的に続く。これが「機能性ディスペプシア(FD)」と呼ばれる病態です。この機能性ディスペプシアは、ストレスや不安、うつ気分といった心理的な要因が、胃の知覚過敏(わずかな刺激を痛みとして感じてしまう)や運動機能の異常を引き起こしていると考えられています。もし、あなたが消化器内科で異常なしと診断されたにもかかわらず、胃痛が改善しない、あるいはストレスを感じると明らかに症状が悪化するという自覚がある場合は、「心療内科」や「精神科」に相談することも、有効な選択肢の一つとなります。心療内科は、身体の症状と心の状態が密接に関連している「心身症」を専門とする診療科です。機能性ディスペプシアは、まさに心身症の代表的なものの一つです。心療内科では、胃の症状を和らげる薬だけでなく、患者さんの抱えるストレスや不安に対して、カウンセリングを通じてアプローチしたり、必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬を用いたりすることで、症状の根本的な原因に働きかけます。胃の痛みという身体的な苦痛が、実は心の悲鳴であることもあります。消化器の専門家と、心の専門家の両方の視点からアプローチすることで、長年のつらい症状から解放される道が開けるかもしれません。体の治療に行き詰まりを感じたら、一度、心のケアという側面にも目を向けてみてはいかがでしょうか。