一か月以上続く咳は、咳喘息や後鼻漏、胃食道逆流症といった、比較的よく見られる病気が原因であることがほとんどです。しかし、ごく稀ではありますが、その咳が、より重篤で、命に関わるような病気のサインである可能性も、決して忘れてはなりません。特に、以下に挙げるような症状や背景がある場合は、自己判断せず、速やかに専門医の診察を受けることが極めて重要です。まず、最も注意すべきなのが「肺がん」です。肺がんは、初期にはほとんど症状がありませんが、進行してくると、長引く咳や血痰(血の混じった痰)、胸の痛み、体重減少といった症状が現れることがあります。特に、喫煙歴のある方や、家族に肺がんの人がいる方で、これまでにない乾いた咳が続くようになった場合は、要注意です。呼吸器内科で、胸部X線(レントゲン)やCT検査を受ける必要があります。次に、「肺結核」も、慢性的な咳の原因となる、今なお注意が必要な感染症です。結核菌が肺に感染することで発症し、咳や痰、微熱、寝汗、倦怠感といった症状が、数週間にわたってだらだらと続きます。周囲の人に感染を広げてしまう危険性もあるため、早期の診断と治療が不可欠です。また、心臓の機能が低下する「心不全」でも、咳が続くことがあります。心臓のポンプ機能が弱まることで、肺に血液がうっ滞し(肺うっ血)、それが刺激となって、特に横になるとひどくなる咳や、ピンク色の泡のような痰が出ることがあります。息切れや足のむくみを伴う場合は、呼吸器だけでなく、循環器系の病気も疑う必要があります。さらに、あまり聞き慣れない病気かもしれませんが、「間質性肺炎」も、頑固な乾いた咳(空咳)と、労作時の息切れを主な症状とします。これは、肺の壁(間質)に炎症や線維化が起こり、肺が硬くなってしまう病気で、原因は様々です。これらの病気は、いずれも早期発見・早期治療が、その後の経過を大きく左右します。咳というありふれた症状の裏に、このような深刻な病気が隠れている可能性もあるのだということを、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。