慢性的な胃痛や胃もたれに悩んでいる方、あるいは胃潰瘍や十二指腸潰瘍と診断されたことがある方は、「ピロリ菌」という名前を耳にしたことがあるでしょう。正式にはヘリコバクター・ピロリというこの細菌は、強酸性の環境である胃の中に生息できる、非常に特殊な細菌です。そして、このピロリ菌こそが、多くの胃の病気の元凶となっていることが、近年の研究で明らかになっています。ピロリ菌は、胃の粘膜にすみつき、アンモニアなどを作り出して、粘膜を傷つけ、慢性的な炎症(慢性胃炎)を引き起こします。この慢性胃炎が、胃痛や胃もたれといった不快な症状の原因となるのです。さらに、この炎症が長期にわたって続くと、胃の粘膜が萎縮してしまう「萎縮性胃炎」へと進行します。萎縮性胃炎は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のリスクを高めるだけでなく、胃がんの発生母地となることが知られており、ピロリ菌感染は胃がんの最大の危険因子とされています。もし、あなたが長引く胃痛に悩んでいるなら、一度、ピロリ菌の感染を調べてみることが非常に重要です。ピロリ菌の検査と治療を専門的に行っているのは、「消化器内科」や「胃腸科」です。検査方法にはいくつか種類があります。胃カメラ(内視鏡)を使わない方法としては、吐く息を調べて感染を診断する「尿素呼気試験」や、血液や尿、便の中の抗体や抗原を調べる方法があります。胃カメラを行う際には、胃の組織を少しだけ採取して、ピロリ菌の有無を直接調べることもできます。これらの検査で、ピロリ菌の感染が確認された場合、「除菌治療」が行われます。除菌治療は、胃酸の分泌を抑える薬と、2種類の抗菌薬の、合計3種類の薬を1週間、毎日服用するというものです。この1週間の服用で、約9割の人が除菌に成功すると言われています。除菌に成功すれば、胃の炎症が改善し、胃痛などの症状が軽快するだけでなく、将来の胃潰瘍や胃がんの発症リスクを大幅に低下させることができます。慢性的な胃痛を、単なる体質やストレスのせいだと諦めていませんか。その痛みの裏には、ピロリ菌が潜んでいるかもしれません。専門医に相談し、検査と治療を受けることが、胃の健康を守るための大きな一歩となります。