大人がRSウイルス感染症にかかった場合、その症状は一般的な風邪と似ているため、症状だけでは確定診断を下すことは困難です。しかし、近年では、RSウイルスの存在を迅速に確認するための検査キットが普及し、診断の補助として用いられるようになっています。医療機関では、どのようなプロセスで診断が行われるのでしょうか。まず、医師は「問診」と「診察」を丁寧に行います。いつから、どのような症状があるか、特に喉の痛みの程度や、咳、鼻水の性状などを詳しく聞き取ります。また、周囲(特に小さな子供)での流行状況や、家族の感染歴は、RSウイルスを疑う上で非常に重要な情報となります。診察では、喉の奥を視診し、赤みや腫れの程度、扁桃腺の状態などを確認します。これらの臨床所見から、医師がRSウイルス感染症を強く疑った場合に、補助診断として「迅速抗原検査」が行われることがあります。これは、インフルエンザの検査と同様に、細い綿棒を鼻の奥(鼻咽頭)に挿入して粘液を採取し、専用のキットを使って、その中にRSウイルスの成分(抗原)が含まれているかを調べる検査です。10〜15分程度で結果が判明するという、迅速さが最大のメリットです。ただし、この検査には注意点があります。RSウイルスの迅速抗原検査は、保険適用の対象となる患者さんが限定されているのです。現在、保険が適用されるのは、「1歳未満の乳児」「パリビズマブ(シナジス)の適応となる患者(早産児や特定の心疾患・肺疾患を持つ乳幼児など)」、そして「入院中の患者」のみです。したがって、健康な大人が外来で受診した際に、この検査を保険診療で行うことは、原則としてできません。そのため、大人のRSウイルス感染症の診断は、多くの場合、検査を行わず、流行状況や臨床症状から「臨床診断」として下されることになります。検査ができないからといって、治療ができないわけではありません。RSウイルスには特効薬がなく、治療は対症療法が中心となるため、診断が確定しても治療方針が大きく変わるわけではないからです。医師は、あなたのつらい症状を和らげることを最優先に、最適な治療法を提案してくれます。
喉の痛み、RSウイルスの検査と診断