咳が一か月以上も続いている。特に、横になると咳き込んだり、日中も頻繁に喉の奥がイガイガして、咳払いを繰り返してしまったりする。このような症状の場合、その咳の原因は、肺や気管支ではなく、「鼻」や「喉」にあるのかもしれません。その代表的な原因が、「後鼻漏(こうびろう)」です。後鼻漏とは、鼻水が、鼻の前から流れ出るのではなく、喉の奥の方へと流れ落ちてしまう状態のことを指します。通常、鼻の中では、吸い込んだ空気を加湿・浄化するために、常に一定量の粘液(鼻水)が作られています。この鼻水は、無意識のうちに喉へと流れ、飲み込まれています。しかし、何らかの原因で鼻水の量が増えたり、粘り気が強くなったりすると、この流れ落ちる鼻水を、喉の異物として敏感に感じ取るようになります。そして、この喉に垂れ込んでくる鼻水や、それが刺激となって生じる痰を、体外に出そうとする防御反応として、「咳」や「咳払い」が起こるのです。後鼻漏による咳は、特に仰向けに寝ると、鼻水が重力で喉に溜まりやすくなるため、就寝中や起床時に悪化しやすいという特徴があります。日中も、常に喉に何かが張り付いているような不快感や、痰が絡む感じが続くため、頻繁な咳払いが癖になってしまうこともあります。この後鼻漏を引き起こす背景には、いくつかの病気が隠れています。最も多いのが、「アレルギー性鼻炎」や「花粉症」です。アレルゲンによって過剰に作られたサラサラの鼻水が、喉に流れ込みます。また、細菌やウイルス感染が原因で、鼻の奥にある副鼻腔という空洞に膿が溜まってしまう「副鼻腔炎(蓄膿症)」も、後鼻漏の大きな原因となります。この場合、粘り気の強い、黄色や緑色がかった鼻水や痰が特徴です。このような症状に心当たりがある場合、相談すべき診療科は「耳鼻咽喉科」です。耳鼻咽喉科では、鼻や喉の状態を直接観察し、アレルギー検査やレントゲン検査などを行うことで、後鼻漏の原因となっている病気を特定します。そして、抗アレルギー薬や点鼻薬、あるいは抗菌薬といった、根本原因に対する治療を行うことで、しつこい咳の症状を改善へと導いてくれるのです。