頭をぶつけた直後は、特に変わった様子がなくても、数時間後、あるいは数日後に、頭蓋骨の内部でじわじわと出血が広がり、深刻な状態に陥ることがあります。これを「遅発性頭蓋内血腫」と呼び、特に高齢者や、血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は注意が必要です。頭をぶつけた後、最低でも24〜48時間は、本人の様子を注意深く観察し、以下に挙げるような「危険な警告サイン」が現れた場合は、たとえ夜間や休日であっても、直ちに救急外来を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。まず、最も重要な観察ポイントは「意識の状態」です。頭をぶつけた後に、意識が朦朧としてきた、呼びかけへの反応が鈍い、あるいは眠ってしまって、つねってもなかなか起きないといった「意識レベルの低下」は、脳が圧迫されていることを示す、非常に危険なサインです。また、話している内容が支離滅裂になったり、場所や時間が分からなくなったりする「見当識障害」も、同様に危険な兆候です。次に注意すべきなのが、「嘔吐」です。頭をぶつけた直後に1〜2回吐くことは、子供などではよく見られますが、時間を置いてから、あるいは何度も繰り返し吐く場合は、頭蓋内の圧力が上昇している可能性があります。特に、噴水のように勢いよく吐く場合は、緊急性が高いと考えられます。また、「けいれん発作」が起きた場合も、脳に何らかの異常が起きているサインであり、即座の対応が必要です。「手足の動き」にも注意を払いましょう。片側の手足が動かしにくい、力が入らないといった麻痺の症状や、まっすぐに歩けない、ふらついてしまうといった運動失調が現れた場合も、脳の特定の部分が損傷・圧迫されていることを示唆します。その他にも、「激しい頭痛」がだんだん強くなってくる、「瞳の大きさが左右で違う」「物が二重に見える」といった症状も、重要な警告サインです。これらの症状は、脳からのSOSです。たとえ打撲が軽いものに見えても、これらのサインを見逃さず、迅速に行動することが、後遺症を防ぎ、命を救うことに繋がるのです。