まぶたのしこりには、細菌感染による「麦粒腫(ものもらい)」の他に、もう一つ、「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」という病気があります。これは、まつ毛の生え際の内側にあるマイボーム腺という脂を出す腺が詰まり、中に脂が溜まって肉芽腫という塊を形成したものです。麦粒腫のような急な痛みや赤みを伴うことは少なく、主な症状は「まぶたのしこり」や「異物感」です。この霰粒腫の治療法は、麦粒腫とは少し異なります。小さな霰粒腫であれば、自然に吸収されて治ることもありますが、しこりが大きくなってきたり、炎症を伴ったりした場合には、積極的な治療が必要となります。その治療の選択肢の一つが、「ステロイド注射(ケナコルト注射)」です。ステロイドには、非常に強力な抗炎症作用があります。霰粒腫は、細菌感染ではなく、溜まった脂に対する体の異物反応(非感染性の炎症)によって引き起こされるため、このステロイドの抗炎症作用が効果を発揮するのです。治療は、眼科の診察室で行われます。医師は、しこりのあるまぶたに、直接、ごく少量のステロイド薬を細い針で注射します。注射の際にはチクッとした痛みがありますが、通常は麻酔なしで行える程度のものです。注射されたステロイドは、しこりの内部でゆっくりと作用し、肉芽腫の炎症を鎮め、塊を萎縮させていきます。注射後、すぐにしこりが消えるわけではなく、効果が現れるまでには数週間かかることが一般的です。ステロイド注射のメリットは、メスを使わずに、比較的簡単な処置でしこりを小さくできる可能性がある点です。切開手術に抵抗がある方や、まずは保存的な治療を試したいという場合に、良い選択肢となります。ただし、全ての人に効果があるわけではなく、効果には個人差があります。また、注射によって皮膚の色が白っぽく抜けたり、皮膚が少しへこんだりする、あるいは眼圧が一時的に上昇するといった副作用のリスクもゼロではありません。しこりが非常に硬い場合や、何度も再発を繰り返す場合には、効果が出にくいこともあります。医師は、霰粒腫の大きさや硬さ、患者さんの希望などを総合的に考慮し、手術などの他の治療法も含めて、最適な方法を提案してくれます。