風邪をひいた後、熱や鼻水は治まったのに、なぜか咳だけがいつまでも残ってしまう。そんな経験はありませんか。通常、風邪による咳は、長くても2〜3週間で自然に治まるのが一般的です。もし、咳が一か月以上も続いているのであれば、それは単なる「風邪の治りかけ」ではなく、何か別の病気が隠れているサインかもしれません。長引く咳は、医学的には「遷延性(せんえんせい)咳嗽(がいそう)」と呼ばれ、その原因は多岐にわたります。最も頻度の高い原因の一つが、「感染後咳嗽」です。これは、風邪などの呼吸器感染症によって気道の粘膜がダメージを受け、咳に対する感受性が高まってしまうことで、感染症が治った後も咳だけが続いてしまう状態です。しかし、これも通常は数週間で改善します。一か月以上も咳が続く場合、特に注意すべき病気がいくつかあります。例えば、「咳喘息(せきぜんそく)」は、喘息特有のゼーゼー・ヒューヒューという喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難はなく、乾いた咳だけが慢性的に続く病気です。特に、夜間や早朝、会話中や運動後などに咳が悪化するのが特徴で、放置すると本格的な気管支喘息に移行することもあります。また、鼻水が喉の奥に垂れ込む「後鼻漏(こうびろう)」が原因で、喉が刺激されて咳が続くこともあります。これは、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)などが背景にあることが多いです。さらに、胃酸が食道へ逆流する「胃食道逆流症(GERD)」も、逆流した胃酸が喉や気管を刺激し、頑固な咳の原因となることが知られています。これらの病気は、それぞれ治療法が全く異なります。一般的な風邪薬や咳止めでは効果がなく、原因に応じた専門的な治療が必要です。もし、あなたの咳が一か月以上も続いているなら、それは体が発している何らかの異常信号です。自己判断で市販薬を飲み続けるのではなく、一度、呼吸器内科やアレルギー科、耳鼻咽喉科といった専門の医療機関を受診し、その咳の本当の原因を突き止めてもらうことが、つらい症状から解放されるための第一歩となります。