夏の時期に感じる吐き気は、多くの場合、夏バテによる胃腸機能の低下が原因です。しかし、中には、緊急性の高い「熱中症」のサインとして現れている場合があり、両者を混同してしまうと、命に関わる危険な事態を招く可能性があります。夏バテと熱中症は、どちらも夏の暑さが原因で起こる体調不良ですが、その緊急性と対処法は全く異なります。その違いを正しく理解しておくことが、自分や周囲の人の命を守るために非常に重要です。まず、「夏バテ」は、数日から数週間かけて、じわじわと現れる慢性的な不調です。主な原因は、屋外の暑さと室内の涼しさの温度差などによる自律神経の乱れや、食欲不振による栄養不足です。症状としては、吐き気や食欲不振、全身の倦怠感、無気力感などが中心で、意識がはっきりしており、会話も正常に行えます。対処法は、涼しい場所で休息をとり、栄養と水分を補給しながら、生活リズムを整えていくことが基本となります。一方、「熱中症」は、高温多湿の環境に体が対応できなくなり、体温調節機能が破綻することで起こる、急性の病態です。熱中症の初期症状として、めまいや立ちくらみ、筋肉痛(こむら返り)などがありますが、症状が進行すると、夏バテと似た「吐き気」や「頭痛」、「倦怠感」が現れてきます。ここが、見分けがつきにくい、注意すべきポイントです。しかし、熱中症がさらに悪化すると、「意識障害(呼びかけへの反応が鈍い、言動がおかしい)」「けいれん」「高体温(体に触ると熱い)」といった、明らかに異常な症状が現れます。これらの症状が見られた場合は、もはや夏バテではありません。それは、命の危険が迫っている重篤な熱中症(熱射病)のサインです。この状態になったら、すぐに救急車を呼び、涼しい場所へ移動させて、服を緩め、首や脇の下、足の付け根などを氷などで冷やすといった、応急処置を開始する必要があります。夏の吐き気を感じたら、吐き気以外の症状にも注意を払い、「意識の状態」がおかしくないか、という点を必ず確認してください。それが、夏バテと危険な熱中症を見分ける、最も重要な分かれ道となるのです。
危険な吐き気、夏バテと熱中症の違い